仏壇に安置される「位牌(いはい)」は、故人の魂が宿る依り代とされ、残された家族が故人を偲び、語りかけるための大切な礼拝の対象です。この位牌の表面には、通常、中央に戒名が大きく記され、その下に「位」や「霊位」といった文字が添えられます。しかし、様々な理由から戒名を授からなかった場合、位牌にはどのように記せば良いのでしょうか。結論から言えば、位牌に俗名を記すことに、何ら問題はありません。戒名をつけずに俗名のまま故人を見送った場合、位牌にも当然、俗名を記すことになります。その場合の一般的な記載方法は、表面の中央に故人の俗名をフルネームで記し、その下に「之霊位(のれいい)」や「霊位(れいい)」と書き添えます。裏面には、故人が亡くなった年月日(没年月日)と、亡くなった時の年齢(享年または行年)を記します。これにより、戒名がなくても、故人の魂が宿る場所として、立派な位牌を作ることができます。ただし、いくつか注意すべき点もあります。最も重要なのは、菩提寺との関係です。もし、代々付き合いのある菩提寺があり、そのお寺のお墓に納骨する予定であるにもかかわらず、お寺に相談なく俗名の位牌を作ってしまった場合、その後の法要(年忌法要など)を執り行ってもらえなかったり、最悪の場合、納骨を拒否されたりする可能性があります。お寺の住職は、そのお寺の檀家として、仏弟子となった証である戒名を授かった故人を供養するという立場だからです。そのため、戒名をつけずに俗名の位牌を作りたいと考える場合は、まず菩提寺の住職にその意向を正直に伝え、理解を求めることが不可欠です。もし菩提寺がなく、特定の宗教に属していない場合は、完全に自由に俗名の位牌を作ることができます。近年では、従来の黒塗りの位牌だけでなく、ガラス製や木製のモダンなデザインの位牌も増えており、故人のイメージに合わせて選ぶことも可能です。大切なのは、形にこだわること以上に、故人を敬い、偲ぶ気持ちをその位牌に込めることなのです。
位牌に俗名を記すことの意味と注意点