日本の仏教には様々な宗派が存在し、それぞれに独自の教義や儀礼があります。中でも、葬儀における故人の名前の捉え方について、他の宗派と明確な違いを持つのが「浄土真宗」です。浄土真宗では、一般的に使われる「戒名」という言葉は用いず、代わりに「法名(ほうみょう)」と呼びます。この違いは、単なる言葉の綾ではなく、浄土真宗の根本的な教義に基づいています。多くの仏教宗派では、故人が仏弟子となるために守るべき「戒律」を授かるという意味で「戒名」と称します。しかし、浄土真宗には、厳しい戒律を守ることで悟りを開くという考え方がありません。阿弥陀仏の絶対的な慈悲(本願力)を信じ、念仏を唱える者は、誰でも等しく救われ、亡くなるとすぐに極楽浄土に往生して仏になると教えます。そのため、守るべき戒律がないので「戒名」とは言わず、仏様の教え(法)に帰依した証として「法名」と呼ぶのです。法名は、本来、生前に「帰敬式(ききょうしき)」という儀式を受けて、仏弟子となった際に授けられるものです。その際、男性は「釋(しゃく)〇〇」、女性は「釋尼(しゃくに)〇〇」という形が基本となります。「釋」とは、仏教の開祖であるお釈迦様(釈迦牟尼仏)の一字をいただいたもので、全ての人が仏様の弟子として平等であることを示しています。もし生前に法名を授かっていなかった場合は、葬儀に際して、僧侶から法名を授かることになります。そして、浄土真宗において、俗名は決して否定されるものではありません。俗名とは、阿弥陀仏の救いにあう前の、この世での仮の姿の名前と捉えられます。葬儀は、俗名で生きた故人が、阿弥陀仏の導きによって法名をいただき、仏として新たな生を歩み始めることを、残された人々が喜び、感謝するための儀式なのです。俗名で生きた人生の尊さと、法名をいただいた新たな旅立ち。その両方を大切にするのが、浄土真宗の考え方です。
浄土真宗における「法名」と俗名の関係