近年、葬儀の形式が多様化する中で、「戒名をつけずに、俗名のまま故人を見送りたい」と考える人や、そうした形式の葬儀を選択するケースが増えています。その背景には、宗教観の変化、経済的な理由、そして個人の生き方を尊重したいという価値観の広がりなど、様々な要因が絡み合っています。伝統的な仏式の葬儀において、戒名は故人が仏の世界へ旅立つために不可欠なものとされてきました。しかし、特定の宗教への信仰心が薄れていたり、無宗教であると考える人々にとっては、仏弟子となる証である戒名を授かることに、違和感を覚えるのは自然なことかもしれません。故人が生前、宗教に全く関心を示していなかった場合、「俗名で生きた故人らしさを、最後まで大切にしてあげたい」と願うご遺族も少なくありません。また、経済的な理由も大きな要因の一つです。戒名は、菩提寺の僧侶に授けてもらうものであり、その際には「戒名料」としてお布施を納めるのが一般的です。戒名には位(ランク)があり、位が高くなるほどお布施の額も大きくなる傾向があります。この経済的な負担を避けたい、あるいは、その費用を他のこと(例えば、残された家族の生活など)に使いたいという、現実的な判断から戒名をつけない選択をするケースもあります。このような葬儀は「無宗教葬」や、特定の儀式にこだわらない「自由葬」といった形で行われることが多く、祭壇には戒名が書かれた白木の位牌の代わりに、故人の俗名と生没年月日が記されたプレートや、故人が好きだった言葉などを飾ります。ただし、菩提寺があるにもかかわらず、そのお寺に相談なく戒名をつけずに葬儀を行った場合、そのお寺のお墓への納骨を断られてしまう可能性もあります。戒名をつけないという選択は、故人と家族の意思を尊重する、一つの新しい葬送の形ですが、後々のトラブルを避けるためにも、菩-提寺との関係性などを十分に考慮した上で、慎重に判断することが求められます。
葬儀で俗名のみ、戒名なしという選択