近年、主流となりつつある「家族葬」は、ご遺族や特に親しかった方々のみで、小規模かつ温かい雰囲気の中で故人様を見送る葬儀形式です。参列者が限定されているため、大規模な一般葬とは異なり、座席の決め方にも、ある程度の自由度と柔軟性が生まれます。厳格な上座・下座のルールに縛られず、故人様を囲んで、よりアットホームな雰囲気でお別れをしたいと願うご遺族にとっては、非常に適した形式と言えるでしょう。例えば、一般的な葬儀のような、通路を挟んで親族と一般参列者が左右に分かれる配置ではなく、参列者全員が親族席に座ることも可能です。あるいは、故人様が好きだった音楽を流しながら、席順を特に定めず、来た人から自由に座ってもらうという、より自由なスタイルを選ぶこともできます。椅子を円形に並べ、中央に棺を安置し、全員で故人様の顔を見ながらお別れをする、といった形式も考えられます。しかし、この「自由」には、同時に「配慮」が求められることを忘れてはなりません。たとえ親族だけの小規模な葬儀であっても、参列者の中には、伝統的な作法や席順を重んじる年配の方もいらっしゃるかもしれません。そうした方々の気持ちを無視して、あまりにも自由すぎる形式を取ってしまうと、かえって居心地の悪い思いをさせてしまったり、後々の親族間のわだかまりの原因になったりする可能性もあります。したがって、家族葬で席順を自由に設定する場合は、事前に親族間でよく話し合い、コンセンサスを得ておくことが非常に大切です。「今回は故人の遺志を尊重し、堅苦しい席順は設けずに、自由にお座りいただきたいと思います」といったように、喪主から事前にその趣旨を説明する一言があるだけで、参列者は安心してその場に臨むことができます。家族葬における座席のあり方は、伝統と個性のバランスをどう取るかという、ご遺族の故人への思いやりが試される場でもあるのです。
家族葬における座席、その自由と配慮