数あるご遺骨の中でも、骨上げの儀式において、ひときわ特別な存在として扱われるのが「喉仏(のどぼとけ)」の骨です。儀式の最後に、喪主や故人と最も縁の深い近親者の手によって、骨壷の一番上に大切に納められるこの骨は、多くの地域で故人の成仏を象徴する、極めて神聖なものと見なされています。しかし、この「喉仏」という名称は、実は解剖学的な俗称です。実際に私たちが喉仏と呼んでいるのは、首にある「第二頸椎(軸椎)」という骨です。この骨がなぜこれほどまでに特別視されるのか。その最大の理由は、その独特な形状にあります。第二頸椎は、複雑な突起を持つ特殊な形をしており、火葬後の残った姿が、仏様が合掌し、座禅を組んでいる姿(坐禅仏)に実によく似て見えるのです。この偶然が生んだ神秘的な形状から、「故人が無事に成仏し、仏様になった証」として、古くから人々はこの骨に深い信仰心と敬意を抱いてきました。火葬場の係員が、数ある骨の中からこの喉仏の骨を探し出し、「これが喉仏です。綺麗に残りましたね」とご遺族に見せてくれる光景は、骨上げの儀式における一つのクライマックスとも言えます。ご遺族は、この仏様の形をした骨を見ることで、故人が苦しみから解放され、安らかな世界へ旅立ったのだと、心の安らぎを得ることができるのです。また、喉仏は、生前、声を出し、言葉を紡ぎ出すために不可欠な喉の近くに位置しています。そのため、この骨には故人の「声」や「言葉」、すなわちその人自身の魂が宿っていると考える人もいます。西日本の部分収骨の地域では、他の骨は拾わなくても、この喉仏の骨だけは必ず拾って持ち帰るというほど、その存在は重要視されています。喉仏の骨は、単なる人体の一部ではありません。それは、科学では説明できない人々の祈りと信仰が生み出した、故人と残された家族の心を繋ぐ、聖なる象徴なのです。
喉仏の骨はなぜこれほど特別なのか